仲間は海の向こうにも

 2024年度も残り1か月となりました。2024年度は、新型コロナウイルス感染症の第5類感染症移行から1年経過したこともあり、宮通研の行事を集合型に戻してきました。さらに、コロナ禍の副産物とも言えるオンラインの利便性も残し、ハイブリッド形式で開催してきました。会場に参集し行事に参加することは、幕間のコミュニケーションをとることができ、ひとつの行事を何倍にも楽しむことができますが、会場まで足を運ぶことが容易ではない会員にとってオンライン参加の手段があるのは助かりますね。しかし、ハイブリッド開催は、意外に会場側の設営に手間がかかります。機材の準備設営に尽力してくださった運営委員ならびにみみサポの皆さんに感謝します。

 

 先日、フランスとリトアニアに行ってきました。NPO法人手話教師センターの企画による、ろうの手話通訳者に関する視察のためです。最近、NHK Eテレなどでろう者が手話通訳や演者として登場する番組が増えましたので、皆さんもろう者による通訳場面を目にしたことがあるのではないでしょうか。NPO法人手話教師センターは2015年から日本財団の助成を受けて、ろう通訳・フィーダー養成講座を開講してきました。当時、欧米ではろう者による手話通訳が始まっており、それを日本にも導入したいと考えてのことでした。2014年から参加していたアメリカのCIT(全米手話通訳トレーナー会議)では、盛んにろう通訳についての研究が報告されていました。司法や精神保健などの分野におけるろう通訳の有効性が報告されており、感銘を受けたものです。(2024年に久しぶりに開催されたCITでは、もうろう通訳に関する報告はありませんでした。アメリカではろう通訳が定着したということでしょうか…) 現在、日本では講演会や学会、テレビ番組でろうの手話通訳者を見ることが多いですが、ろうの手話通訳が威力を発揮するのはコミュニティ通訳のほうだと思います。既に、沖縄県や大分県、東京都江戸川区などが意思疎通支援事業でろうの手話通訳者を派遣していますが、まだ、日本ではろうの手話通訳は定着していません。全日本ろうあ連盟は2023年度から「ろう者による手話通訳に関する検討会」を設けて、ろう者が手話通訳することについて調査検討し、今後どのようなかたちで手話通訳制度に組み入れていくのか検討を進めています。今回の視察は、今後日本でどのような通訳のかたちを展開できるのか、させるべきなのかを考えるためのものでした。

 

 視察メンバーは、手話教師センター代表が3名、全日本ろうあ連盟から2名、国際手話通訳者2名と宮澤の合計8名(ろう者6名・聴者2名)でした。視察内容は、ろうの手話通訳者の養成と働き方を見ることです。

 フランスのトゥールーズでもリトアニアでも、手話通訳者は大学で養成されます。どちらも学士課程3年と修士課程2年の計5年の課程を履修し卒業しなければなりません。学生が授業だけでなく、共にクラス活動を送ることにより、双方の文化や言語を理解することになり、大変有効であると語っています。

 フランスのトゥールーズはろう者の街といわれているところです。そのようなフランスで最近活躍しているのが、「メディトゥア(médiateur)」です。”médiateur”とは仲介という意味のフランス語ですが、メディトゥアはいわばろう者向け言語的文化的仲介者とでもいえるでしょうか。メディトゥアはトゥールーズ第二大学(ジャン・ジョレス大学)の手話翻訳・メディトゥア・通訳学科で養成されます。この学科にはろう者も聞こえる人もいますが、メディトゥア科はろう者しか入れません。メディトゥアは医療・司法・文化などの各領域で活躍していますが、そもそもメディトゥアは医療領域で始まった仕事のようです。1990年代世界的にエイズが問題になったとき、病気に関する情報や診療時の手話通訳を求める声に応えて、病院に勤務していた医療サポート業務のろう者が通訳をするようになりました。その後、その仕事の法整備を行う際、「ろう専門家」という言葉を使えなかったため(ろう者に限定することが法的に不適切であるため)「メディトゥア(médiateur)」という名称が使われるようになったそうです。フランスでは、大きな病院に併設されているUASSというセンターが30か所あります。そこには、通訳者、メディトゥアなどが在職しており、患者と医療スタッフの言語保障を行っています。

 リトアニアでは、リトアニア手話通訳センターの下部組織として、国内5か所の地域センターと、緊急対応を担うセンター、研修を担うセンターなど計7つのセンターがあり、それぞれ通訳者が雇用されています。リトアニアのヴィリニュス大学で養成され、仕事をしている手話通訳者は約120名、そのうちろうの通訳者は6名で、ろう者60人に通訳者1人という割合だそうです。視察したリトアニア手話通訳センター(カウナスセンター併設)は、築600年という歴史的建物の中に、通訳コーディネート室をはじめ、事務部門、技術編集部門など、近代的にリニューアルされた部屋がありました。中には通訳者用の談話室やヒーリングルームもありますが、通訳者は全員出払っていてどちらも無人でした。勤務時間は8時間で、原則一人1日2件までとのこと。遠隔通訳や国際会議通訳、政府広報の手話翻訳なども請け負いますが、ZOOM接続や撮影編集などは専門のスタッフが担い、通訳者・翻訳者は通訳翻訳に専念できる体制が整えられています。手話通訳者たちの給料を含むセンターの運営費はすべて政府資金で賄われています。リトアニアは通訳養成についてはヨーロッパを、仕事についてはスウェーデンを参考にしています。

 一方、フランスでは、手話通訳者も翻訳者も個人事業主か複数名の社員を擁する会社組織となっています。政府からはろう者個人に年金が支給され、ろう者が通訳を依頼する場合は、年金から通訳報酬を支払います。しかし、実際はろう者からではなく、病院だったり警察などの機関からの依頼が多いようです。

 

 百聞は一見に如かずと言いますが、自分の目で見、直接人と語り合うことに優る学びはないと思えます。日本でも近年手話通訳の形態が多様化しています。情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法が制定され、手話施策推進法の制定が待たれる中、ろう者ときこえる人が協働する通訳の形態も含めて、どのような通訳システムが人権を守り、社会を豊かにするのか、みんなで顔をあわせ一緒に考えていきましょう。まずは、4月12日の宮通研2025年度定期総会でお会いしましょう!

会長  宮澤典子