8月15日~18日、インドネシア・ジョグジャカルタで、WASLIアジア手話通訳者会議2024が開催されました。コロナ禍のステイ期間を乗り越え、今回は会場集合とオンラインのハイブリット型での開催となりました。ジョグジャカルタの会場参加は、16か国・特別行政区から49人(ろう者11人・聴者38人)。オンラインでは5か国から20人の参加がありました。
WASLI(世界手話通訳者協会)の目的は、「ろう団体と連帯し、すべての国に手話通訳者組織を創設し、手話通訳を専門職として確立する」ことです。その目的に向けて各地でさまざまな活動を展開しているわけですが、今回アジアでは16日と17日の二日間で、4つのセッションを行いました。
◆セッション1「国際手話通訳認定について」(講演・質疑応答)
◆セッション2「手話通訳の養成と資格認定システムについて」(レポート発表)
◆セッション3「手話通訳者協会結成の取り組み」(パネルディスカッション)
◆セッション4「WASLIアジアの現状と課題」(グループディスカッション・全体会)
セッション1では、アルゼンチンのろう通訳者ドゥルエッタ氏(WASLI初代副会長)を講師に迎えて、WFD(世界ろう連盟)とWASLIが共同で取り組んでいる国際手話通訳認定について話していただきました。認定試験は年2回実施されます。受験資格として50時間以上の通訳実績が必要です。現在、認定通訳者は正45人、準15人ですが、そのうちアジアの通訳者は準認定通訳者の3人のみです。これは国際手話を使える通訳者が少ないことと、アジアの通訳者養成システムが不十分であることが要因かもしれません。
セッション2では、養成・認定のシステムを持っている、フィリピン、日本、韓国から経過と成果を報告してもらいました。フィリピンや韓国は手話言語法の制定以降、手話や手話通訳に関する制度が進展しました。フィリピンでは2005年に手話通訳養成認定システムについて検討に着手し、2007年から養成を開始しました。養成方法には3年制の大学で通訳者を養成するコースと、ショートプログラムやワークショップで養成する方法があります。韓国では、ろうの通訳者も聞こえる通訳者も認定試験を受けて合格した人が通訳の仕事に就くことができます。1999年に最初の通訳センターが設立され、現在センターは195にもなり、それぞれにろうの通訳者1名ときこえる通訳者3~4名がフルタイムで雇用されているそうです。ものすごい数の通訳者がいることになりますね。
セッション3では、最近国レベルの協会を設立したマレーシア、インドネシア、インドの会長をパネラーに迎え、パネルディスカッションを行いました。手話通訳は対人労働です。そのため職業倫理の保持と遵守が不可欠です。倫理は集団のなかで作られます。協会を設立するのは容易なことではありません。主義主張が異なる通訳者やろう者たちと地道に対話を重ね、賛同者を増やし、複数の通訳者たちの合意を取り付けなければなりません。今回のパネラー3人にはカリスマ性と揺るぎない信念が備わっていると感じました。
セッション4は、未来を考えるグループディスカッションです。昨年、韓国・済州島で開催したアジア地域会議の際に、アジアを東/東南/南西の3地域に分け、それぞれの地域代表者とWASLIアジア地域代表が協力していくことが合意されました。そこで、この3地域とオンライン参加者のグループに分かれてディスカッションを行いました。各グループに共通している課題は、①養成・認定、②資金・報酬、③政府とのつながり・制度の充実です。アジアに限らず、手話通訳業界の課題はこの3つが挙げられますが、それでも、国レベルの協会が増えてきたり、ろうの通訳者ときこえる通訳者の協働が進むなど、内容は少しずつ向上しているように思います。現在のWASLIアジア地域代表が残りの任期で取り組むべきことの輪郭が見えてきたように思いました。①アジアの方針を決める会議、②WASLI会員全員が参加できるセミナー、③部門別ワークショップ(指導方法/行政交渉方法/カリキュラム・資格試験検討/倫理綱領検討etc.)などできるかな。あと3年頑張りたいと思います。
さて、今回のインドネシア訪問は結構弾丸でしたが、最終日の午前中にジョクジャカルタのクラトン王宮観光がありました。4グループに分かれて説明を受けながら回るのですが、この説明の通訳は、すべてろうの通訳者ときこえる通訳者のチームでした。ろうの通訳者はみな高身長の男性で、台がなくても見えて良いことだと喜んでいたのですが、無頓着なある国のろう通訳のおじいさんがいつも通訳者の近くに陣取って質問するので、ちっちゃい子組のわたしたちは何度も「ちっ!」と思いながら、場所を調整しながらついて回ったのでした。通訳者たる者周囲に目を配るべきですよね。これも倫理規範のひとつじゃないの…?
会長 宮澤典子