新しい年度、いのちを感じいのちを考える

新年度あけましておめでとうございます。

3年間私たちを苦しめた新型コロナウイルス感染症もようやく下火になり、ポストコロナ、ウィズコロナの段階になりました。マスク着用は個人の判断にゆだねられ、行動の制限も緩和され、久しぶりに明るく晴れやかな春となりました。春は別れと出会いの季節です。卒業や入学を見守ってくれるサクラですが、仙台のソメイヨシノは、今年は例年より13日も早く開花しました。みみサポ向いの錦町公園でもきれいに咲いています。日本のサクラは野生種だけで11種類あり、それぞれ開花時期が異なることから、比較的長い期間花を楽しむことができます。開花から満開になっていく様子は気分を高揚させてくれますし、花吹雪にははかなさと潔さを感じさせられます。古来、数々の詩歌に詠まれ、現代においても歌謡曲の題材に取り入れられるなど、日本人にとってサクラは特別な花ですね。春は芽吹きの季節、いのちを感じる季節です。

 

3月18日(土)、全通研第4回WEBアカデミーが開催されました。今年度最後のWEBアカデミーは、「『優生保護法』聞こえない人と家族・手話に関わる人~障害者が子どもを産み育てる選択を否定した法律~」について、弁護士であり、手話通訳士であり、全通研国際部翻訳部員でもある藤木和子氏のお話でした。藤木さんは「聞こえないきょうだいをもつSODAの会」代表であり、聴覚障害者に関わる活動を続けていらっしゃいます。私が初めて藤木さんとお会いしたのは、2014年の「高松市手話通訳・市外派遣拒否違憲訴訟」の報告会でした。手話ができる弁護士さんなんて珍しいなぁ…と思っていましたが、その後手話通訳の勉強をして手話通訳士となり、聞こえないきょうだいをもつSODAの会を立ち上げるなど、聴覚障害者のそばで法的知見を武器に八面六臂の大活躍をしています。その中の一つが今般の優生保護法被害弁護団としての働きです。

2017年、日弁連は、旧優生保護法下において実施された優生思想に基づく優生手術及び人工妊娠中絶に対する補償等の適切な措置を求める意見書を厚生労働大臣あてに提出しました。そして、2018年5月17日には、札幌、仙台、東京の各地方裁判所に対して旧優生保護法に基づく優生手術に対する国家賠償請求が提訴されました。現在までに全国10か所の地方裁判所に34人の原告が提訴しています。原告はみな高齢で、判決を待たず鬼籍に入った方々も少なくありません。また、除斥期間を過ぎていることも大きな障壁となっていました。国家賠償請求訴訟はかなり難航していましたが、静岡地裁は2023年1月24日判決で国に対して損害賠償を命じました。熊本地裁や東京高裁でも、国に対して賠償命令の判決を下しましたが、国は上告受理申立を行っています。そして、2023年3月23日大阪高裁は、兵庫訴訟について認容し、国に対して賠償を命じましたが、国はこれに対してどのように動くのでしょうか。

旧優生保護法は1948年に制定され、1996年には名称が母体保護法へと改められ、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」という目的が削除されるとともに、優生手術に関する規定等が削除されました。法律が改正されたのに、なぜ今になって提訴するのか、今さら係争するまでもないのではないかという声もあります。たしかに、今のところは、過去に行われたような非人道的な手術は実施されないかもしれません。しかし、この法律の土台となっていた優生思想はどうなったのでしょうか。優生思想は多数派にとって大義名分となりやすい思想です。障害=悪=世の中から「悪」を排除するのは善いことと思ってしまいます。しかし、そもそも障害は悪なのでしょうか。第三者が勝手にいのちの優劣を決められるものなのでしょうか。かつて善しとされていたものが今は悪とみなされています。ならば、今悪と思われていることが、いつか善に転じることがないとはいえません。社会が考え続け、立法府を監視し続けなければ、また優生保護法のような法律が成立してしまうかもしれないのです。私たちは無関心という大罪を犯さないように、学び続けたいと思います。

 

この3月27日で、宮通研は満35歳になりました。会員25人で発足した宮通研ですが、いまでは130余名の集団になりました。これまで宮通研を支えてくださった会員の皆さんに心から感謝します。

私たちは、聴覚障害や手話というマイノリティに関わっています。マイノリティと出会うことによって、多様であることの素晴らしさと重要性を知りました。マイノリティはその希少性により、社会に埋没させられやすい存在です。そのため、常に存在を主張し続けなければなりません。伊東雋祐の「共同の権利主張者としての手話通訳」を、今の社会で、今の全通研で、どのように実践すべきか皆さんと話し合ってみたいと思います。

コロナ禍により、地域班や研究班の例会が開けない状態が続きました。活動の停滞は関心の減少につながります。私たちは無関心になってはいけないのです。そして、多数派の盲目的な思想に巻き込まれないようにしなければなりません。そのためには、つねに多様な意見に接する機会を確保し、自分の意見を持ち、表明できるようになければいけないと思うのです。

2023年度は、東北ブロック研修会が福島県で開催されます(6月25日)。3年間休止していた東北大会も岩手県盛岡市で開催されます(9月23日~24日)。全通研サマーフォーラムinとくしまも集合型で開催されます(8月18日~20日)。コロナが落ち着きを見せ始めた今年度は、ぜひ皆さんと顔を合わせる機会を、話す機会を取り戻したいものです。

新年度もどうぞよろしくお願いいたします。

 会長  宮澤典子