新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言が解除されました。4月7日の発令から49日ぶりの全面解除です。この間、私たち国民は「うつらない」「うつさない」対策を徹底してきました。手話通訳関連ではどのような動きがあったでしょうか。
1.首長会見における手話通訳
かねてより、首相官邸の会見には手話通訳がつくようになっていましたが、東京以外の地域では、知事会見に手話通訳を配置する意識は低かったと思います。ところが、知事会見の様子がローカルテレビ局のニュース番組で放送されたり、動画が各都道府県ホームページに掲載されるようになると、手話通訳を求める声が強まりました。全日本ろうあ連盟を中心とした三団体共同の要請もあり、知事会見に手話通訳をつける都道府県が増えていきました。手話通訳の配置が進むと、次には見え方に対する要望が出てきました。首相官邸の手話通訳は、いつも画面の外に追いやられます。それでは聴覚障害視聴者には無意味です。そこで、都道府県知事の会見では、話者のすぐ近くに手話通訳が位置するようになりました。
テレビニュースに手話通訳が登場するようになると、一般の視聴者から「手話通訳者だけマスクを着用しないのはなぜ?」と疑問の声が上がるようになりました。それに対して、聴覚障害者側から説明がツイートされたり、情報提供施設がホームページに説明動画を掲載するようになり、聴覚障害者とマスク、手話とマスクに関する認知が広まりした。それを受けて、透明マスクやフェイスシールドの活用が増えてきました。一般の人たちの目に触れることがとても効果的であることがわかりました。
報道における手話通訳については、世界で動画や写真が飛び交いました。海外では、ろう通訳者が登場している国も多く、通訳利用者の満足度を上げようとする取り組みが見られます。一方で、政府やテレビ局が手話通訳を配置しないため(または、その通訳ではわからないため)、通訳者組織が自主的に通訳付きの動画を配信しているという国もあります。いずれにしても、新型コロナウイルスは、国際的に首長会見における手話通訳を一歩前進させたように思います。
2.医療機関における手話通訳
もし、聴覚障害者(通訳利用者)が新型コロナウイルスに感染した場合の手話通訳をどうするか、全通研を中心とした三団体が共同見解を発表しました。まず、感染者の受診・治療においては、登録手話通訳者ではなく、自治体等に雇用された手話通訳者が通訳を担うことが望ましいと、そして受診・治療時には通訳者の感染防止のため、医療スタッフと同様の装備(防護服や防護マスクの着用など)をするよう医療機関に申し入れること、などの方針が提示されました。
また、遠隔通訳の導入も進められました。自治体に設置されている手話通訳者や情報提供施設の手話通訳者と医療機関をオンラインでつなぎ、手話通訳を提供するシステムです。もし、医療機関や通訳利用者がインターネットに接続できる端末を用意できない場合は、情報提供施設等から端末を貸し出しすることもできます。宮城県では、今のところ当該の通訳要請はありませんでしたが、遠隔通訳を実行するには、通訳者側にも利用者側にもオンラインに関するスキルが求められますね。
新型コロナウイルスではない疾病における受診については、従来どおり、登録手話通訳者の皆さんに活躍していただきました。マスク着用や手洗いの徹底はするものの、医療機関に足を運ぶということで、不安を抱えての通訳活動だったかと思います。しかし、利用者側も不急の受診は控えるなど対策を講じたため、通訳件数としてはこれまでよりも減少したように思います。その是非はともかくとして、今のところ手話通訳者の皆さんが健康で過ごしてくださっていることに安堵しています。
3.医療以外の手話通訳
3月以降、集会等の自粛要請により、依頼していた通訳のキャンセルが相次ぎました。学校の休校に伴い、3月~5月恒例の卒業式や入学式、懇談会などの通訳も激減しました。その分増加したのは、先に述べた知事会見の通訳です。
しかし、各種行事が中止・延期になるということは、聴覚障害者の社会参加の枠が狭まることでもあります。外出自粛による苦労は東日本大震災後の状況に類似していました。もちろんあのときとは比べようもありませんが、人と対面で会話することができない、コミュニケーション不足の苦しさということでは似たような状況だったかと思います。
4.全通研活動
集会の自粛要請をうけて、宮通研では定期総会を中止し書面決議による採択を行いました。結果は、別紙をご覧ください。新年度については、上半期の事業を自粛し、学習会等は下半期に実施すべく用意をしていきたいと思います。同様に全通研東北ブロックもブロック代議員会の議案について書面(オンライン)にて採択を行いました。そして、役員会はオンラインにて行いました。オンライン会議は、機材やインターネット環境に左右される面もありますが、自宅にいながらにして顔を合わせて話ができます。これまで、ICTを遠いものととらえていた人たちも、少しずつ壁を乗り越えて新しいスキルを身に着けることができました。
全通研では、「政策立案ML」をとおして、各地の手話通訳の取り組みについて情報交換をしてきました。さいきんは支部活動に関する情報交換が多くなってきたので「全通研ネットワークML」と名称を変え、皆さんの意見交換の場を確保しました。
私たちは、知識・情報を分かち合うことで新型コロナウイルスに対抗してきました。今後も闇雲に恐れることなく、知識をもって明るく活動していきましょう。
(会長 宮澤典子)